狐面の刺青の意味とは?図案の由来と、色や組み合わせの読み方の写真

狐面の刺青の意味とは?図案の由来と、色や組み合わせの読み方

狐面の刺青の意味を先に言うと、稲荷の神の使いである狐を顔に写した面を、守りの図案として身に刻んだものです。そこに、面の下に素顔を隠す、化ける、本心を見せないという読み方が重なります。狐面そのものの意味は別記事「狐面の意味とは?」に任せ、ここでは刺青の図案としての由来と、色や組み合わせの読み方に絞ります。

調べはじめて意外だったのは、狐面が和彫りの古い定番題材ではないことでした。江戸の彫物の題材として記録に残るのは、水滸伝の豪傑や神仏、般若や髑髏で、狐面は出てきません。それなのに今、彫師の作例や図案の解説には狐面が並んでいます。この差がどこから来たのかを追うと、図案の意味もはっきりします。

狐面の図案は、稲荷の神使の狐から来ている

狐が神の使いになった経緯から始めます。神使とは、神と関係のある動物のことで、稲荷の狐、八幡の鳩、春日の鹿、熊野の烏がよく知られます。伏見稲荷大社は、稲荷大神の使い(眷族)は狐であると説明したうえで、それは野山にいる普通の狐ではなく、人の目には見えない存在だから白狐(びゃっこさん)と呼ぶのだと述べています。稲荷大神そのものが狐なのではない、という点もはっきり書かれています。

和彫りの側では、刺青の歴史を発信している彫師の団体が、狐の図案を三つに分けています。人を化かす狐、宝鍵や巻物を咥えた白い「お稲荷さん」、そして玉藻前に化けて帝を惑わせた九尾の狐です。狐面として彫られるのは、この分類でいえば二つめの、神使の白狐の顔です。白地に赤の隈取りという定番の配色は、神社の狐像や祭りの狐面をそのまま写したものです。

ここで一つ、面と狐の違いを押さえておきます。狐そのものを彫れば、彫られているのは狐です。狐面を彫れば、彫られているのは「狐の面を着けた何か」です。面の図案には、着けている人間が隠れています。この一段のずれが、狐面の図案を狐の図案と分ける読み方の起点になります。

和彫りの題材として狐面はいつから

江戸の彫物は、文化年間に全身へ多色の絵柄を入れる形が定着し、町火消や鳶、車引きの間で流行しました。1827年に歌川国芳が『通俗水滸伝豪傑百八人之一個』を出すと、全身に彫物をした豪傑の姿が大評判になり、その後の図案の手本になりました。題材は水滸伝の豪傑、歌舞伎や講談の英雄、神仏が中心で、般若、髑髏、生首のような恐ろしい図柄も好まれました。

明治5年(1872年)に彫師と客の双方が規制され、1948年の軽犯罪法の施行で近代を通して続いた禁止が外れるまで、彫物は人目を避ける文化になりました。この間の記録に、狐面の名前は見つかりません。今の彫師のサイトでは、狐面は「祭りでよく使われる面で、刺青の図案としても人気がある」という紹介のされ方をしています。資料で確かめられる範囲では、狐面の図案が広まった時期は、王子の狐の行列(1993年開始)のように参加者が狐面をかぶる催しが平成以降に増えた時期と重なります。

海外でも事情は同じです。海外の彫師のサイトは狐面を、年を重ねるほど力を増す狐の妖怪の面として紹介し、「ずる賢さ、変化、知恵」と稲荷への結びつきを並べて説明しています。神使の顔と化かす狐の顔を一つの面に重ねて読む点は、日本の彫師の説明と変わりません。

新しいからといって意味が軽いわけではありません。古い図案は、意味が決まっている代わりに読み方の自由が少ない。狐面は逆で、神使の白狐という芯だけが決まっていて、残りを彫る人が決められます。

朱塗りの狐面(左)と黒地に金を差した狐面(右)朱塗りの狐面(左)と黒地に金を差した狐面(右)
朱塗りの狐面(左)と、黒地に金を差した狐面(右)。刺青の図案で色を選ぶときの、面そのものの色の例です。

白、赤、黒。狐面の色をどう読むか

色の読み方は、面の色の由来から引けます。ただし、狐面の色や模様は作り手ごとに違い、統一の規則はありません。彫師によっても解釈は変わります。

色 面の色の由来 図案での読み方
白地に赤 稲荷の神使の白狐。神社の狐像と同じ配色 守護、清め、幸運。狐面の図案の基本形
黒 黒い狐(玄狐)は平安時代の『延喜式』で瑞兆の獣に数えられている 白の裏返しとして、隠した本心や夜の顔を表す読み方が多い
赤 赤い狐も『延喜式』の瑞兆の一覧に入っている 白狐の赤い隈取りを面全体に広げた変形として彫られる

色には、意味のほかに彫りの都合もあります。手彫りで入れた白は治ったあとに強く出るので、面の地色を白にすると、面が肌から浮き上がって見えます。白地の狐面が多いのは、意味だけでなく、この見え方の良さにもよります。

目元から上を覆う半狐面
目元から上だけを覆う半狐面。面をずらして顔の半分を見せる構図は、こうした半面の形を借りています。

面をずらした女性、九尾、鳥居。組み合わせの読み方

狐面の図案で一番多い組み合わせは、女性です。面を顔に着けず、頭の横や額の上にずらして掛けた女性の姿で、面と素顔の両方が見えています。狐が女に化ける伝承を背景に、化ける途中の姿、あるいは「面の下の本当の顔」を描いた構図です。海外の彫師の説明では、美しさと賢さを両方持つ、人に見せる顔を使い分ける、という読み方で紹介されています。ずらして掛ける着け方は、祭りや行列で狐面をかぶる人の姿そのものでもあります。

九尾の狐と組む場合は、意味が変わります。九尾は玉藻前の伝承に連なる魔物で、強い霊力や妖艶さを表し、神使の白狐とは系統が別です。狐面と九尾を一つの図案に入れると、神の使いと魔物という狐の二面を同時に背負うことになります。

鳥居、稲穂、宝鍵、巻物、狐火も狐面と相性のよい要素です。鳥居と稲穂は稲荷の神域を示し、宝鍵と巻物は神社の狐像が咥えている持ち物です。狐火は青や緑の炎で描かれ、狐の怪しさを足します。桜や紅葉を添えるのは和彫りの化粧彫りの常道で、面の周りに季節を置いて図案を体に馴染ませます。

図案を決める前に確かめたいこと

狐面は面の種類が多く、同じ「狐面」でも顔立ちが違います。彫る前に、どの面を写すかを決めておくと、彫師との相談が早く進みます。

  • 全面か半面か。全面は神楽や行列の狐の顔、半面は祭りや縁日の顔で、印象が変わります
  • 目元の隈取りの形。つり上げたひし形、細い一本線、目尻だけの跳ね上げなど、地域や作り手で違います
  • 口の形。笑った口、閉じた口、牙を見せた口で、守りの面にも化かす面にもなります
  • 実物を見ること。写真では分かりにくい鼻先の長さや耳の角度が、図案の狐らしさを左右します

仮面の専門店である当店でも、店頭で一番よく手に取られるのは狐面です。実物を顔に当てて、面を上にずらしたときにどう見えるかを確かめてから図案を考えると、面をずらした女性の構図の意味が自分の感覚で分かります。

よくある質問

狐面の刺青は縁起が悪いですか

由来からいえば逆です。狐面が写しているのは稲荷の神使の白狐で、守りと幸運の側にいる存在です。縁起が悪いという言い方は、狐が人を化かす伝承や、九尾の狐の魔物の面と混ざったものです。神使の白狐と、化かす狐と、九尾は、伝承の上で別の存在として分けられています。

女性が狐面を入れるときの意味は変わりますか

資料の上で、狐面の図案に性別の決まりは見つかりませんでした。面をずらした女性の構図を女性自身が入れる場合は、自画像に近い読み方になります。

狐面と般若の面の図案はどう違いますか

般若は能面で、嫉妬と悲しみで鬼になった女性の顔です。狐面は神の使いの顔で、感情ではなく存在を表します。般若が「なった顔」なら、狐面は「かぶった顔」です。般若の図案の読み方は、別記事「般若の面の意味とは?」で扱っています。

稲荷神社の狐を彫るのは失礼にあたりますか

神社がそう述べた資料は見つかりませんでした。伏見稲荷大社の説明は、狐は神そのものではなく使いであるという一点で、図案にすることの可否には触れていません。確かめられないことなので、ここでは不明と書いておきます。

仮面屋おもての店内

仮面屋おもてで実物を見る

店頭でいちばんよく手に取られるのが狐面です。店頭の面はすべて試着でき、着けたまま写真を撮っていただいても構いません。

  • 場所 東京都墨田区京島3-20-5(キラキラ橘商店街)/京成曳舟駅から徒歩(道順)
  • 営業 土日のみ 13:00〜18:00
  • 通販 遠方の方は国内向けオンラインストアから

参考にした資料