能面の作り方 木取りから彩色までの工程と期間、講座の探し方の写真

能面の作り方 木取りから彩色までの工程と期間、講座の探し方

能面は、檜の角材から彫り、裏をくり抜き、胡粉で白く塗ってから彩色して作ります。彫りの工程だけで能面師でも約3週間、彩色まで含めると、講座で学ぶ初心者は半年ほどかけて一面を仕上げます。この記事では、能面師が公開している工程を順に追い、紙粘土や型紙で写しを作る方法、能面の講座の探し方と費用の目安をまとめます。

能面を作ることを、能の世界では「打つ」と言います。彫るでも作るでもなく、打つ。鑿を木槌で打って彫り進める作業から来た言い方で、能面師の工房も講座も、この言葉で通っています。

能面の種類ごとの顔立ちと役は「能面の種類一覧」に、値段は「能面の値段と相場」に書きました。ここでは、一面がどうやってできるかだけを扱います。

材料の檜と、面の大きさ

材料は檜が一般的で、桐で作られたものもあります。能面師の間では、木曽の檜で、山で切り出して川で流す間にヤニが抜けたものが最良とされてきましたが、現在は手に入りにくくなっています。能面師の話に出てくる材の選び方は、20〜30年かけて乾燥させた檜の角材から切り出す、樹齢200〜300年の木から年輪の細かいものを選ぶ、といったものです。

角材の寸法は、7寸×5寸、厚みは2寸5分から3寸という尺貫法の規格が伝わっていて、近年は22cm×15cm×7.5cmのようにメートル法で切った材も流通しています。能面師の工程解説では、縦240mm、柾目の幅170mm、厚さ90mmの檜材を使う例もあります。

できあがる面は、人の顔より小さく、薄く、軽いものです。博物館が収蔵する江戸時代の小面は、縦21.3cm、横13.6cm、高さ7.3cmで、重さは154gです。鬼神の面である顰でも縦21.2cm、横16.6cmと、女面より幅が広いだけで、縦はほとんど変わりません。当店でも能面・狂言面を店頭に置いていますが、手に取った方が最初に口にするのは軽さのことです。

この寸法は、彫りの誤差の許容範囲でもあります。能面師は、5mm縮んだだけで表情が落ち込む、と語っています。木取りで輪郭を決めた時点で、面の表情の大半が決まります。

彩色前の白木の般若(左)と、くり抜いた能面の裏側(右)彩色前の白木の般若(左)と、くり抜いた能面の裏側(右)
彩色する前の白木の般若(左)と、能面の裏側(右)。木取りで決めた輪郭と彫りだけで表情ができ、裏は輪郭を残してくり抜いてあります。

木取りから裏彫りまで(彫りの工程)

彫りは、型紙を写すところから始まります。能面師は、本面(手本にする古い面)を傷めないように正面と横顔の型紙を起こし、材に写します。工程を公開している能面師の例では、一面に22枚の型紙を使います。

  1. 木取り:材の面に鉋をかけ、縦横の中心線を引いてから、輪郭の型紙を写します。四隅を鋸で落とし、鑿で輪郭を出します。鉛筆の線には、あとで修正できる余白を残しておきます。
  2. 荒彫り:四角いブロックから、輪郭、鼻、額の大きな起伏へと形を落としていきます。縦と横の型紙を当てて反りを確かめながら、不要な部分を鑿で取ります。
  3. 中彫り:目、鼻、口の位置がわかる程度まで彫り進めます。コンパスやディバイダーで目鼻口の位置を測り、左右をそろえます。
  4. 小作り(こなし):目や口の細部を彫刻刀で形にします。鼻の穴や口の開きは、錐で下穴を開けてから整えます。
  5. 裏彫り:表が終わったら、輪郭に沿って5mmほどを残し、丸鑿で裏をくり抜きます。顔に当たる面なので、削り跡の凹凸をできるだけ少なくします。
  6. ヤニ抜き:檜のヤニが胡粉を浮かせるので、エタノールや熱湯で抜きます。工程によっては4〜5日置きます。

彫りにかかる期間は、能面師で約3週間です。初心者はこの何倍もかかりますが、時間の大半は、型紙を当てては削る、の往復に消えます。一気に彫り込まず、型紙に合うところまでを何度にも分けて落とすのが、彫りの基本です。

裏の漆と、胡粉の下地

裏をくり抜いた面には、漆を塗ります。木地の保護と補強のためで、艶のある部分とない部分を作ると、同じ色でも風合いが出ます。工程解説では、化学漆を使い、マコモの粉をすり込む例もあります。

表には胡粉を塗ります。胡粉は貝殻を焼いて粉にした白い顔料で、膠(動物の皮や骨から取る接着剤)で溶いて使います。能面師の公開手順では、三千本膠3本を水200ccで、沸騰させないように溶かします。

  1. 膠液と胡粉をよく練り合わせ、木になじむように塗ります。
  2. 一度に厚く塗らず、乾かしながら重ねます。塗り急ぐと胡粉にひびが入ります。
  3. 3回ほど塗って木目を消したら、サンドペーパーで磨きます。最初は120番、仕上げは180番が目安です。
  4. 磨いては塗りを繰り返し、刷毛目が消えて滑らかになるまで続けます。

この段階の面は真っ白で、表情はまだ出ていません。胡粉の層が薄すぎると木目が透け、厚すぎると彫った線が埋まります。彫りで作った表情を消さずに木目だけ消す、という加減が下地の仕事です。

毛描きの線が見える般若の額(左)と、胡粉の白い肌の小面(右)毛描きの線が見える般若の額(左)と、胡粉の白い肌の小面(右)
古色を付けた般若の額(左)と、小面の肌(右)。左は額に毛描きの線が一本ずつ入り、右は胡粉の白い肌に紅を差しています。

彩色、古色、毛描き

上塗りの胡粉には、朱と黄土を混ぜて肌色を作ります。顔料を単色で使うことはほとんどなく、3色ほど混ぜて色を出すのが能面師のやり方です。小面なら、平筆を強く握らずに刷毛目を出しながら塗り、髪の部分には黄土を入れた胡粉を塗ります。

肌ができたら、目の輪郭に墨を入れ、目の中に細い線で影を作り、唇に紅を入れます。唇は、朱と黄土を混ぜた数色を重ね、影をつけて奥行きを出します。

古色は、新しい面に古びを付ける工程です。ただ古く見せるためではなく、光を柔らかく拡散させるためだと能面師は説明しています。ぼかし刷毛で霧をかけ、タンポンで全体に色を置き、砥の粉で磨く。この薄い汚しを何度も繰り返します。

最後が毛描きです。髪を墨で塗りつぶしたあと、両刃の小刀で墨を削って毛筋を彫り出します。描き足すのではなく、黒い面から白い線を起こす順序です。

彩色は、塗っては乾かしの繰り返しなので、彫りより日数がかかります。講座の例では、彫りから彩色まで6か月かけて小面一面を仕上げる組み立てになっています。

初心者が紙粘土や型紙で写しを作るには

檜を彫る前に、紙粘土で形を写してみる方法があります。能面の講座の中にも、油粘土の彫塑から始めて見る力を養うところがあります。立体の形を覚えるには、削る前に盛るほうが早いからです。

  1. 手本にする面の写真を、正面と横顔の2方向で用意します。博物館の収蔵品データベースには寸法が載っているので、縦21cm、横13.5cm前後の実寸に印刷します。
  2. 印刷した正面の輪郭を厚紙に写して切り抜き、輪郭の型紙にします。横顔の輪郭も同じように切り抜いたものが、反りの型紙です。
  3. 厚紙かボール紙の板に、輪郭の型紙で輪郭を描きます。
  4. 紙粘土を盛って、額、頬、顎の大きな起伏を作ります。横顔の型紙を縦に当てて、反りが合うまで盛り足しと削りを繰り返します。
  5. 起伏が合ってから、目、鼻、口の位置を正面の型紙から写し、へらで形を作ります。
  6. 風通しのよい日陰で1週間ほど乾かし、紙やすりで整えてから、白のアクリル絵の具を下地に塗って彩色します。

粘土で作る写しは、能面の手順をそのままなぞります。型紙を当てて大きな形を決め、次に目鼻口、最後に彩色。この順番を守れば、粘土でも面らしい顔になります。逆に、先に目を描いてから周りを盛ると、左右がずれます。

型紙だけで平面の写しを作るなら、「お面の作り方」に書いた画用紙のお面の手順で足ります。「コスプレ用の仮面の作り方」で扱った型紙の取り方は、立体から型紙を起こす方法なので、能面の反りの型紙を作るときにも使えます。

能面の講座の探し方と費用の目安

能面の講座は、面打ちの講座とも呼ばれます。探し方は三つあります。能面師が自身の工房や貸し講座で開いている個人講座、新聞社や放送局が運営するカルチャーセンターの講座、市の文化施設や公民館の講座です。「能面の講座」「面打ち」と地域名で検索すれば、この三種類のどれかが出てきます。

初心者は小面から始める講座が多く、6か月で小面一面を完成させる組み立てが標準的です。個人講座では、1回4時間の受講を20〜24回で一面、という例もあります。

講座の種類 受講料の例 別にかかる費用の例
カルチャーセンターの講座 3か月6回で33,000円 鑿、彫刻刀、檜材などの教材費が45,000円程度
能面師の個人講座 1回4時間で8,000円(受講した回のみ) 入会金20,000円(小面の型紙と材木込み)
市の文化施設の講座 3か月分で12,000円 材料費は別途

いずれも各講座が公開している一例で、地域と講師によって変わります。目安として、受講料は1回あたり4,000〜8,000円、道具と材料の初期費用は2万〜4万5千円を見ておけば大きく外れません。彫刻刀を持っていれば、その分は減ります。

講座を選ぶときは、刃物の研ぎを教えるかどうかを確かめます。彫刻刀は研げなければ切れなくなり、切れない刃で彫ると面が荒れます。公開されている講座案内には、刀の研磨と取り扱いも習得する、と明記しているものがあります。

よくある質問

能面は何でできていますか

檜の一木から彫った木彫りに、裏は漆、表は胡粉と顔料で彩色したものです。胡粉は貝殻の粉、それを溶く膠は動物の皮や骨から取る接着剤で、どちらも日本画と同じ材料です。桐で作られた面もありますが、檜が主流です。

能面を一面作るのにどれくらいかかりますか

能面師で、彫りに約3週間です。彩色は塗っては乾かしの繰り返しなので、彫りより長くかかります。初心者が講座で習う場合は、彫りから彩色まで6か月で小面一面が標準的な組み立てで、1回4時間の受講を20回以上重ねる計算になります。

能面の型紙はどこで手に入りますか

能面師は本面から自分で型紙を起こしますが、初心者にはそこから始めるのは無理な話です。入会金に小面の型紙と材木を含めている講座もあり、まずはそれを使うのが近道です。独学なら、博物館の収蔵品データベースに載っている寸法と正面写真から、自分で輪郭の型紙を起こすのが出発点です。

能面を自分で作ると費用はいくらですか

講座に通う場合、受講料と道具・材料の初期費用を合わせて、最初の一面に8万〜12万円ほどかかる計算です。独学で材料だけなら、檜の角材と胡粉、膠、顔料で済みますが、彫刻刀と鑿を一式そろえる費用が別に要ります。講座の教材費の例が4万5千円程度なので、道具の予算はそのあたりが目安です。

仮面屋おもての店内

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能面・狂言面は店頭での販売とお取り寄せを行っています。詳しくは能面・狂言面の販売・お取り寄せをご覧ください。店頭の面はすべて試着でき、着けたまま写真を撮っていただいても構いません。

  • 場所 東京都墨田区京島3-20-5(キラキラ橘商店街)/京成曳舟駅から徒歩(道順)
  • 営業 土日のみ 13:00〜18:00
  • 通販 遠方の方は国内向けオンラインストアから

参考にした資料