木彫りの天狗面 産地と作り、山伏と祭りの天狗、玄関に飾る習慣の写真

木彫りの天狗面 産地と作り、山伏と祭りの天狗、玄関に飾る習慣

木彫りの天狗面は、天狗を祀る寺社の門前と、面を彫る職人の工房の二つの場所から生まれます。買って飾るなら、どこの土地の面か、木か紙か、鼻の長さをどう選ぶか、どこに掛けるかを知っておくと迷いません。

天狗の面に意味を求める人は多いのですが、面を掲げる寺社ごとに天狗の性格は少しずつ違います。高尾山では本尊の眷属、大雄山では寺を建てた僧の化身、迦葉山では残された面そのものが信仰の始まりです。同じ赤い顔と高い鼻でも背負っている物語が別だということは、面を選ぶときに案外効いてきます。

天狗そのものの由来、鼻高天狗と烏天狗の違い、祭りの行列で先頭を歩く理由は「天狗のお面の意味とは?」に書きました。ここでは、面がどこで作られ、どう作られ、どう飾られているかに絞ります。

赤い格子に掛けられた天狗の面
赤い格子に掛けられた天狗の面。写真: Motokoka, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

天狗の面を掲げる土地

関東で天狗の面といえば、東京の高尾山薬王院、神奈川の大雄山最乗寺、群馬の迦葉山弥勒寺、栃木の古峯神社が知られています。京都の鞍馬山も加えて、それぞれの天狗を見ていきます。

高尾山薬王院(東京都八王子市)は744年に開かれた真言宗の寺で、本尊は飯縄大権現です。寺の案内では、天狗は飯縄大権現の眷属として除災開運や招福の力を持ち、山伏が深山で修行を重ねるうちに山の霊気と融合して、山伏の姿が天狗と同一視されるようになったと説明しています。本堂の左右には巨大な木の面が掛かっていて、右が赤い顔で鼻の高い大天狗、左が青い顔でくちばしの口をした小天狗(烏天狗)です。面を納めた枠には、奉納した講の名が記されています。

大雄山最乗寺(神奈川県南足柄市)は1394年創建の曹洞宗の寺です。南足柄市の案内によると、創建に貢献した道了という僧が、寺の完成と同時に天狗になって山中に身を隠したと伝えられ、道了尊として祀られています。この伝説にちなんで、境内には多くの下駄が奉納されています。

迦葉山弥勒寺(群馬県沼田市)は848年開創の寺で、寺の案内では関東三大天狗の山の一つです。ここには「お借り面」という独特のならわしがあります。初めて参詣するときに中峰堂で天狗面を借りて持ち帰り、次に参詣するときにその面を返し、門前の店で求めた新しい面を添えて納め、また別の面を借りて帰ります。中峰堂には1939年に奉納された、顔の丈6.5メートル、鼻の高さ2.8メートルの大天狗面が安置されています。

古峯神社(栃木県鹿沼市)は天狗を祭神の使いとする神社で、社殿の内部に掛かる多くの天狗面は、心願が成就した人が奉納したものです。

鞍馬山(京都市)の天狗は、僧正ガ谷に住んでいたと伝えられる天狗で、牛若丸に兵法を授けたという伝説が能の「鞍馬天狗」に残っています。

こうして並べると、天狗の面には三つの動き方があることがわかります。祈る対象として掲げる面(高尾山の本堂)、借りて返す面(迦葉山)、願いがかなって納める面(古峯神社)です。面を手に入れることが、そのまま寺社との縁の続け方になっています。

彫り上げたままの白木の般若(左)と、彩色を終えた般若(右)彫り上げたままの白木の般若(左)と、彩色を終えた般若(右)
彫り上げたままの白木の面(左)と、下地と彩色を重ねた面(右)。どちらも般若ですが、木彫りの天狗面も同じ順で仕上げます。

木彫りの天狗面はどう作られるか

木彫りの面は、一本の角材から彫り出されます。お面作家が天狗面を作る工程を記録した記事では、15×23×9センチの角材(耳の分を足した大きさ)に型紙を当て、少しずつ削って顔の形にしていきます。高い鼻は、あとから別の木を足して作ります。彫り上がったら白い下地を塗り、赤を重ね、磨いて艶を出し、上塗りで立体感を付け、目に銅板をはめ、最後に髭を付けて完成です。制作期間は約15日とありました。

鼻を別の木で付けるのは、理にかなっています。長い鼻を一木から彫り出すと、鼻の分だけ厚い材が要るからです。鼻の長さは、面の値段だけでなく、材の取り方まで左右します。

木の種類は、彫りやすさと欠けにくさで選ばれます。木曽檜は刃物の切れがよく打ちやすい彫刻材として能面に使われ、楠は粘りがあって欠けにくく、刃通りのよい木です。市販の木彫り天狗面には、檜のものと楠の白木のものがあります。彩色をせず木目を見せる面と、下地を塗って赤く彩色する面とがあり、同じ木彫りでも印象は大きく変わります。店で木彫りの能面や狂言面を試着される方は、まず手に取って木の重さを確かめてから顔に当てられますが、天狗面も同じで、重さと厚みが木の面の存在感です。

天狗面がすべて木彫りというわけではありません。迦葉山の門前で求める迦葉山天狗面は群馬県のふるさと伝統工芸品で、赤くにらみをきかせた顔を創業当時からの手作業で作っています。こちらは紙製の張り子です。借りて返す面は、軽くて数が要るので、紙で作るのが合っています。

鼻の長さと木の種類で値段はどう変わるか

木彫りの天狗面の値段は、大きさ、鼻の長さ、木の種類、彫りと彩色の手間、作者で決まります。鼻が長いほど材が多く要り、別材で付けるにしても継ぎの仕事が増えます。檜や楠の無垢材は、同じ寸法でも樹脂や合板より高く、作家の手彫りは型で量産した面より高くなります。

金額を出典つきで示せるのは、紙製の迦葉山天狗面だけです。群馬県の案内では600円から15,000円程度と、大きさによって幅があります。木彫りの面の価格帯は、公的な出典に示されたものがないので、ここには書きません。実際に買うときは、同じ寸法で木の種類と彩色の有無を比べると、値段の差がどこから来ているかが見えてきます。

山伏と天狗、祭りで先導する面

天狗の面が寺社と結びついているのは、天狗が山伏と重ねられてきたからです。百科事典の説明では、修験道の修行は苦行の末に山の神と一体になり、その霊力を身につけることであり、ここに山の神である天狗と山伏の同体化があるとされています。鼻高天狗と烏天狗という二つの姿は、伝統的な仮面の「鼻高面」と「烏面」の二種に由来するという説明もあります。面が先にあって、天狗の姿が面から定まったという順序です。

修験道の山では、正月の修正会などの法会で延年の舞が行われ、天狗の面は悪魔を払うと信じられていました。面は舞台の小道具ではなく、払う力を持つ道具として扱われていたわけです。

神社の祭礼で行列の先頭を歩く天狗は、猿田彦神です。百科事典には、神社の祭礼で行列の先導をする者が、鼻の高く突き出た天狗の面をかぶり矛を持つこと、それが天孫降臨のときに道案内をした故事から起こったことが書かれています。猿田彦は赤ら顔で鼻が非常に高い神と記され、天狗の面がそのまま当てられました。

木彫りの天狗面を祭りで実際にかぶる場合、問題は重さです。木の面を長い行列の間かぶり続けるのは楽ではなく、紐と額当ての調整が要ります。飾るための面とかぶるための面は、同じ木彫りでも作りが違うので、祭りで使う面を探すなら、裏側の彫りの深さと紐の通し方を先に見ます。

玄関や鬼門に飾る習慣

天狗の面を家に飾るとき、玄関に掛ける人が多いのは、外から入る魔を退ける位置だからです。島根県では神楽の面を玄関に飾る家が多く、県の古代文化センターの学芸員は、魔除けや守り神の意味で面を飾る風習は日本各地にあるが、神楽の面を玄関に飾るのは島根県独自と考えられると説明しています。面を作る工房によれば、戦後の高度経済成長期に家が多く建った時期に根付いた、比較的新しい風習だそうです。新築祝いや出産祝い、店の開業の節目に贈られます。

飾り面を作る工房の案内では、天狗は道しるべの神(猿田彦命)として先導者の役を持つ大願成就の象徴、般若は魔を払うため玄関に飾って門番のように外からの災いをにらむ面、鍾馗は魔を避け疫病を払う面、と面ごとに意味を分けています。

鬼門は、陰陽道で北東(艮)の方角を指し、邪悪な鬼が出入りするとして忌まれてきました。正反対の南西は裏鬼門です。家の北東に便所や玄関を造るのを避ける、屋敷神として稲荷を祀る、といった習俗が生まれました。天狗や般若の面を鬼門の側に掛けるという話を聞くことがありますが、出典で確かめられたのは鬼門の忌避そのものまでで、面の向きや場所に全国共通の決まりはありません。地域や家によって違います。

実際に掛けるときの注意は三つです。木の面は乾燥と湿気の繰り返しで割れることがあるので、直射日光が当たる窓際と、エアコンの風が直接当たる位置を避けます。面の裏に通した紐だけで吊るすと、紐が切れたときに落ちて鼻が折れるので、面を立てる台か、額と顎の二点で支える金具を使います。鼻の先は最も当たりやすい部分なので、人が通る動線の高さに鼻先が来ないように掛けます。

よくある質問

天狗の面は木彫りと張り子のどちらが長持ちしますか?

弱点が違います。木彫りは衝撃に強く、割れても修理できますが、湿度の変化で木が動いて割れることがあります。張り子は軽く、落としても割れにくい反面、湿気で糊が緩み、紙がふくれます。どちらも直射日光と湿気を避ければ長く持ちます。毎年の祭りでかぶるなら軽い張り子、飾って残すなら木彫りが向いています。

迦葉山で借りた天狗面は、必ず返さないといけませんか?

寺の案内では、次に参詣するときに借りた面を返し、新しい面を添えて納め、また別の面を借りて帰るのがならわしです。感謝の心と縁を大切にする意味が込められていると寺は説明しています。返す時期の期限は案内に書かれていません。

烏天狗の面も木彫りで作られますか?

作られます。高尾山薬王院の本堂には、赤い大天狗と対で、青い顔にくちばしの口をした小天狗(烏天狗)の木の面が掛かっています。家に飾る面は鼻高の大天狗が多いのですが、対で飾るなら、向かって右に大天狗、左に烏天狗という高尾山本堂の配置が一つの参考になります。

天狗の面を飾ると縁起がよいのですか?

天狗を祀る寺社の説明では、天狗は除災開運、災厄消除、招福の力を持つ眷属(高尾山薬王院)、あるいは祭神の使い(古峯神社)です。面を飾って家を守ってもらうという考え方は、この信仰の延長にあります。ただし、飾る場所や向きに決まりがあるわけではなく、どの寺社の天狗かによって性格も少しずつ違うので、面を授かった土地の説明に従うのがいちばん自然です。

仮面屋おもての店内

仮面屋おもてで実物を見る

日本の面から現代の作家の一点物まで、さまざまな仮面を並べています。店頭の面はすべて試着でき、着けたまま写真を撮っていただいても構いません。

  • 場所 東京都墨田区京島3-20-5(キラキラ橘商店街)/京成曳舟駅から徒歩(道順)
  • 営業 土日のみ 13:00〜18:00
  • 通販 遠方の方は国内向けオンラインストアから

参考にした資料